『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』ともう1本 [キネマのブルース]
『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』
シリーズ第28作、1980年封切り作品、マドンナは伊藤蘭(ランちゃん)です。
映画が公開された当時、私は高校生で「寅さん」のよさは全く理解できませんでした。
今観ると、寅さんシリーズの本作はコメディーというよりも哀愁漂う人生劇場ですね。
閑話休題、10代の私は世評への反発心もあって寅さん映画から意識的に遠ざかっておりました。
本作を観るのは初めてです。
話はこんな具合に始まります。
旅先で商売をする寅さんはかつてのテキヤ仲間の訃報を耳にします。
驚いたことに寅さんは亡くなった知人に線香をあげに行くと言います。すると他の仲間たちも寅さんに香典をことづけます。
先日、1978年ごろの寅さん映画で先祖供養が薄れてきてていることをブログで書きましたが、1980年の本作では故人への中々義理堅いエピソードが物語の発端になっています。
この映画から40年。今では家族葬が一般的になり、こうした義理人情が薄くなることをその頃誰が想像したでしょうか?
死んだ友人の娘として登場するのが今回のヒロイン(伊藤蘭)でした。
キャンディーズのランちゃんだった伊藤蘭は「普通の女の子」にいったん戻り、そして復帰したのが本作らしいです。好演でした。
本作ではセブンーイレブンがスーパーとして扱われていたり、当時のヒット曲・長渕剛の「順子」が流れていたり、昆布の食品工場で働くあき竹城扮する女工さんが「ストリップやるか?」というセリフを言ったり、時代設定だけでなく寅さんシリーズの背景も垣間見えたりしました。
もう1本、本作の1年後に作られた『男はつらいよ 寅次郎紙風船』も味わい深い作品でした。
マドンナの音無美紀子さんがこれもいい演技でした。
音無さんは私としては正統派で堅気のイメージでしたが、この作品ではテキヤの女房を見事に演じてみえて驚きました。
この作品にはもう一人のマドンナ的に当時21歳の岸本加世子が登場します。あれは怪演と言っていいでしょう、というくらいの演技で作品に花を添えています。
他にも寅さんのテキヤ仲間で音無さんの亭主役に小沢昭一、寅さんの同級生役に東八郎、前田武彦、犬塚弘といったそうそうたる顔ぶれです。
果たして寅さんは音無美紀子演じる光枝さんにフラれたのでしょうか?
私にはそうはみえなかったなぁ。
光枝さんが最後とらやの呼び込みをするシーンやその前にあるタバコを吸う場面、そして柴又で二人が別れるところは幾重にも解釈ができる気がします。
昭和が遠くなって、寅さんは別の色合いが出てきた思います。
2020-10-12 17:08
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