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辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』小学館、2020年 [本のブルース]

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辻堂ゆめさんの『十の輪をくぐる』を読んだ。


年初から素晴らしい本に出会え感動している。


こんな話を書けるのはどんな人かと思い著者略歴を見ると、なんとまだ20代の若者ではないか 正直驚いた。


細部をしっかり書き上げながら帯評にある様に大河ドラマを見るような流れを作る著者の構想力に舌を巻く。


主人公の一人【万津子】の過去の生活の描写はまるで作者の実体験のようにイキイキとしている。 1990年神奈川県生まれの辻堂氏が昭和30年代の九州の炭鉱や農村の生活、あるいは愛知県一宮市の紡績工場で働く女工さんの仕事ぶりを知識としては知り得ても体験どころか見ることすらできない。


それをまるで自叙伝のようなリアルさで書いていることに驚嘆した。 辻堂氏は自身のブログの中で「自分がこのようなことを書いていいのか何度も自問自答した」という意のことを書いている。 実際にその頃の炭鉱や紡績工場で働いた人でご存命の方も現在おみえであるし、なんとなくその頃の雰囲気がわかる昭和生まれの人間の数はもっと多い。それらの人に嘘くさいとか、地に足がついてないと思われたらこの小説は成り立たない。


辻堂氏はその難しい課題に挑戦し、見事書き上げた。 さぞやたくさんの参考文献を読まれたのであろう、と思いそのリストを見た。


私はここで二度感動した。


参考文献の書き方が研究者のそれであったからである。 すなわち、著者→書名→出版社の順で掲載している。多くの作家や文筆家は参考文献を書名から掲げることが多い。最近では研究者もこのルールを知らないことがある。惜しむらくは出版年が記載されていないことだがそれはスルーしよう。


閑話休題、下記は私の断片的な感想。


■全体的な雰囲気が山田宗樹氏の『嫌われ松子の一生』と共通したものを感じる。万津子は松子へのオマージュか?あるいはもっと単純に子だくさんの農家における末子を転じたものなのだろうか。


■後半の万津子の母の言動を読みある農家の女性を想起した。農村の閉鎖性というのは所が違っても似ているのだろうか。


■作者は過去のことだけでなく、現代の会社事情もよく知っている。作者プロフィールによれば会社勤めの経験ありとのこと。


昨年2020年に行われるはずだった東京オリンピック。タイトルにある【十の輪】は1964年と2020年の2回の東京オリンピックを表している、というのを何かの書評で読んだ。 題名の付け方が実に上手い。二つのオリンピックをくぐる親・子・孫三代にわたるオリンピック話。それを単なるスポ根ものではなく、家族の物語として紡ぎ出したのが辻堂ゆめさんの真骨頂。


1964年生まれの私がこの本に出会えたことにしみじみとした幸せを感じる。

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