寅さんだったら何て言ってくれるかな? [キネマのブルース]
いつも書いているように、BSテレ東で放送されている『男はつらいよ』デジタルリマスター版を録画して見ている。
先日、シリーズ第40作「寅次郎サラダ記念日」を観た。 前説には俵万智さんが登場して歌を披露。
「自己責任 非正規雇用 生産性 寅さんだったら 何て言うかな」
さすがに上手い!
閑話休題、たしか1990年代初頭に法律が変わり、派遣社員が当たり前となった。 それによって企業は人ではなくて、コストとして労働者を見ることが明確化されたように思う。
以来、30年の間に非正規雇用となったのは自己責任であり、生産性が低い人間は非正規雇用もやむなし。それも自己責任というわけだ。
果たして寅さんだったら何て言うのだろうか。 寅さんがからかいながらも尊敬の念をもっていた「労働者諸君」達も正規雇用だったはずだ。 アイツも頑張ってるんじゃないか。皆んなでなんとかしてやろうぜ、そういう気持ちが社会全体にあった時代だったと思う。
寅さん第39作の感想付け足し [キネマのブルース]
先日、寅さんの第39作『男はつらいよ 寅次郎物語』について書いた。 今日はそこに書かなかったこと、つまり付け足し。
話の中でイッセー尾形が大阪のおまわりさん役で出てくる場面がある。 寅さんはそのおまわりさんにいい旅館がないかをたずねる。
「千円ぐらいで泊まれるところはないか。ただしビジネスホテルはいやだからな」 みたいなセリフがある。
これに対してイッセー扮するおまわりさんが「今の日本の現実を知らないの」的な言葉を言い返す。
これを見たとき私は思った。 山田監督は寅さんにあえて時代錯誤なセリフを言わせて、寅さんシリーズがすでに終わった作品だと映画会社や観客に訴えたかったのではないだろうか。
本作が公開されたのは1987年、昭和末期である。映画の中の風景を見ても1970年代とは明らかに異なり、バブル前夜のニオイがプンプンする。
つまり、寅さんのバックボーンとは異なる世界に変わっていたのだと思う。 ここからまだ寅さんは主役の渥美清さんの体力の続く限り続くのだが、それは少し残酷な感じがしてならない。
寅次郎物語 [キネマのブルース]
テレビ(録画)で『男はつらいよ』第39作「寅次郎物語」を観た。 この話はいつもと違いマドンナや葛飾柴又の家族とのカラミが少ない。
寅さんが妙に達観して、自らを反省する言葉が随所に出る。これまでもそういうセリフはあったが、もう少しサラリとしていたように思う。
写真は甥の満男が寅さんに難しい質問をするシーン。
満男「人間はなんで生きているのかな」
寅さん「生まれてきてよかったなって思うことが何べんかあるじゃない。そのために人間生きてんじゃねえのか」
閑話休題、この映画では賢島や二見浦が出てきて三重県民にとっては懐しい映像が流れる。
昭和62年の作品。昭和は遠くなりにけり。
『ゴッドファーザーPARTⅢ』 [キネマのブルース]
年末に録画しておいた『ゴッドファーザーPARTⅢ』を観た。 初見ではないが、内容をほとんど覚えていない。
昔見たときにおもしろかった印象がない。 それが今回見直してみると中々良いではないか。 おそらく私のことなので、本作が作られた当時の評価が悪かったことから、自分も面白くないと決めつけていたのだろう。 若い頃の私にはそういう傾向が強かった。続編はその前の作品を超えることができないとも思っていた。
つまり、自分の「素」の評価ができなかったのだ。今もその傾向がないこともないが、若い頃よりはマシになっている。
閑話休題、『ゴッドファーザーPARTⅢ』。
映像美や作りの豪華さは素晴らしいと思う。役者も悪くない。コッポラの娘が出演していて、スケープゴート的に酷評されたというが、言われるほどはヒドくはない(私が英語を理解しないこともあるが)。
話の筋も前作、前前作をうまく継承してまとまりがあった。 私は観ていて、ふと黒澤明監督の『乱』を思い出した。
『乱』も悪くない映画だった。映像美や音楽、衣装、豪華なセットは凄いし、役者も良かった。しかし、往年の黒澤作品と比べれば物足りなかった。
この『PARTⅢ』も『乱』と同じではなかったのだろうか。シリーズ第一作、第二作と比べられるハンデがあったとも言えるだろう。 また宗教上のナイーブな問題に踏み込んだことも影響しているのかもしれない。
2020年、この『PARTⅢ』を再編集したものが公開されたと聞く。出来栄えが良く、過去の出演者たちの評価も高いらしい。ぜひとも観たいものだ。
三重県津市が話題の映画『浅田家』を観てきました [キネマのブルース]
3日連続の映画話で恐縮です。
本日ご紹介するのは、いま三重県津市で盛り上げっている『浅田家』。
メインのロケ地で、かつ津の地名もちゃんと出てくる映画というのは、津市にとっては初めてではないかと思うのです。(私の記憶ベース)
そのため津の広報誌でも3回くらい特集が組まれていて、主演の二宮クンとかがバーンと写っているものはメルカリで売られていたというのですからスゴイです!
閑話休題、映画のあらすじとかはさんざん紹介されているので、それは省略させていただき、結論から言えば「たいへんいい映画」でした。
数年前に観た『ブランク13』の逆バージョンで、家族のハッピーな物語と言っていいでしょう。途中に悲しい事件はあるものの、それを乗り越えていく庶民の力強さ。それは家族というコミュニティが持つ力なんだと、あらためて気づかされました。
主演の二宮クンはさすがのハリウッドスター(死語?)だし、妻夫木クンは家族の中のいい人の役をやらせたら今やこの人の右に出る役者はいないでしょう?!
そして伝説の「蒲田行進曲」から40年の平田満さんは渋明るい親父さんを好演。
齢を重ねてますますカワイイ風吹ジュンさんの母親もはまりすぎてます。(余談ながら松田優作と共演していた頃の風吹ジュンさんをつい思い出したりします。)
他にも素晴らしい役者さんが登場し話を盛り上げていくのですが、この作品のプロデューサーの小川さんが三重県出身の方で、聞くところによれば「自分のふるさとに恩返ししたい」ということでこの映画を企画されたそうです。
この映画に対する地元のフィーバーぶり(これも死語)を見ていますと、故郷に錦を飾った小川さんはホント天晴な方だと思いました。
ぜひご覧になられることをお薦めいたします。
『ミッドウェイ』 [キネマのブルース]
先日『TENET』を観に行った際に本作に気づいて久しぶりにハシゴして観た作品です。
私の評価は5点満点で3.5点。
史実を忠実に描いており、少しばかりアメリカ寄りの見方はあるものの、真珠湾攻撃についても「奇襲」「卑怯」という解釈ではなく、米軍の「油断」「無能な上司が部下の進言を無視した」というふうに表現されています。
ミッドウェイまでの大日本帝国海軍は連戦連勝を重ねていることも素直に脅威とされていて、当時の日本側の強さやアメリカの危機感がよく伝わってきます。
そんな中での乾坤一擲、天下分け目の「ミッドウェイ海戦」。
私としてはもう少し「日本海軍はどこでまちがえたのか」というところを掘り下げてほしかったなぁと思いました。
『TENET』 [キネマのブルース]
私が尊敬する経営者で、映画通の師から薦められて『TENET』を鑑賞しました。
私の評価は、5点満点の4.5点と、自分の中では高評価です。
たしかに難解な作品で、私もたくさん理解できなかったところもあります。また、見逃している伏線等も多々あるような気がします。
しかし、それらを差し引いても息もつかせぬスピーディーな場面展開と迫力ある画面、そして話の面白さは抜群で、二度三度観たいと思わずにはいられない作品です。
それとヒロインの女優さんの美しさと主人公の相棒となる俳優さんのキャラがカッコよくて、その点も本作を魅力的にしている大きな要因でしょう。
話の筋はターミネーターを想起するところもあり、007やMIP的な要素もあったりするのですが、私はエンディングシーンを観てなぜか『オーメン』のラストを思い出したりしました。
おすすめの1本です。
『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』ともう1本 [キネマのブルース]
『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』
シリーズ第28作、1980年封切り作品、マドンナは伊藤蘭(ランちゃん)です。
映画が公開された当時、私は高校生で「寅さん」のよさは全く理解できませんでした。
今観ると、寅さんシリーズの本作はコメディーというよりも哀愁漂う人生劇場ですね。
閑話休題、10代の私は世評への反発心もあって寅さん映画から意識的に遠ざかっておりました。
本作を観るのは初めてです。
話はこんな具合に始まります。
旅先で商売をする寅さんはかつてのテキヤ仲間の訃報を耳にします。
驚いたことに寅さんは亡くなった知人に線香をあげに行くと言います。すると他の仲間たちも寅さんに香典をことづけます。
先日、1978年ごろの寅さん映画で先祖供養が薄れてきてていることをブログで書きましたが、1980年の本作では故人への中々義理堅いエピソードが物語の発端になっています。
この映画から40年。今では家族葬が一般的になり、こうした義理人情が薄くなることをその頃誰が想像したでしょうか?
死んだ友人の娘として登場するのが今回のヒロイン(伊藤蘭)でした。
キャンディーズのランちゃんだった伊藤蘭は「普通の女の子」にいったん戻り、そして復帰したのが本作らしいです。好演でした。
本作ではセブンーイレブンがスーパーとして扱われていたり、当時のヒット曲・長渕剛の「順子」が流れていたり、昆布の食品工場で働くあき竹城扮する女工さんが「ストリップやるか?」というセリフを言ったり、時代設定だけでなく寅さんシリーズの背景も垣間見えたりしました。
もう1本、本作の1年後に作られた『男はつらいよ 寅次郎紙風船』も味わい深い作品でした。
マドンナの音無美紀子さんがこれもいい演技でした。
音無さんは私としては正統派で堅気のイメージでしたが、この作品ではテキヤの女房を見事に演じてみえて驚きました。
この作品にはもう一人のマドンナ的に当時21歳の岸本加世子が登場します。あれは怪演と言っていいでしょう、というくらいの演技で作品に花を添えています。
他にも寅さんのテキヤ仲間で音無さんの亭主役に小沢昭一、寅さんの同級生役に東八郎、前田武彦、犬塚弘といったそうそうたる顔ぶれです。
果たして寅さんは音無美紀子演じる光枝さんにフラれたのでしょうか?
私にはそうはみえなかったなぁ。
光枝さんが最後とらやの呼び込みをするシーンやその前にあるタバコを吸う場面、そして柴又で二人が別れるところは幾重にも解釈ができる気がします。
昭和が遠くなって、寅さんは別の色合いが出てきた思います。
昔の時代劇のカッコよさ『眠狂四郎殺法帖』 [キネマのブルース]
新型コロナ禍のひきこもり生活の影響からか(?)最近はBSで古いいい映画がたくさん流れているように思います。
今どき見ようと思えば専門チャンネルと契約するなどもっと方法はあるのでしょうが、日々あまり時間もないのでそれは完全リタイア後の楽しみにとっておくこととします。
閑話休題、市川雷蔵主演の『眠狂四郎殺法帖』は筋運びもおもしろいし、時代劇の様式美も素晴らしく、たいへん楽しめた1本でした。
そして、なによりも役者の皆さまが男性はカッコイイし、女性は美しくかわいいのです。
市川雷蔵は言うに及ばず、中村玉緒は後年の印象とはまるで違い可憐で美しく、この時期の時代劇に欠かせぬ存在感があります。(実はそのあたりのことはあまり詳しくありません。)
城健三朗時代の若山富三郎も出演しています。
監督は悪名シリーズや眠狂四郎シリーズなど数多の映画・テレビ作品を残した田中徳三。(言うまでもありませんが。)
昭和38年の作品です。
子どものときパニクッた映画 [キネマのブルース]
先日テレビで映画『日本沈没』を観ました。
私が小学生のときに大ヒットした映画なので、もちろん題名は知っていますし、同時期に放映されたテレビシリーズは観ていました。
(今思い返すと、私の子どもの頃というのは、日本は沈没するし、ノストラダムスの予言はあるし、怖いことばかりでした。フィクションというのが救いでしたが。)
今回テレビサイズで見たとはいうものの、当時の特撮技術の高さに驚かされました。
作り物とわかりますが、職人技というべき精巧さと実写場面をまじえてのリアル感の出し方は素晴らしいです。
これは私の想像ですが、東京大空襲や関東大震災を経験した方が製作スタッフにいたのではないかと思います。衣服に火がついて逃げまどうシーンの鬼気迫ること。あれは実体験がないと出せないなァ。(個人的見解です)
さて、話はタイトルにありますように日本が沈没し、日本人が世界各国に移民していくという流れです。
この映画、そして小説の肝は日本が沈没するという着想にあります。おそらくこの小説が発表されるまで、日本列島が沈没するというような荒唐無稽なことを考えた人はいなかったのではないでしょうか?!
地球の長い歴史から見れば、大陸が移動したり、隆起や沈没することもあったのですからそれが荒唐無稽とも言えないわけです。
想像を超えることとは、想像したくないだけのことかもしれません。