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村山由佳著『風よ あらしよ』

2020-12-12T22:57:33.jpg
この文芸書は素晴らしいの一語に尽きる。

そして、私の語彙が乏しくて変な言い方になるけど、書籍としても素晴らしい。

まず、書籍としての素晴らしさを説明すると、本がしっかり丁寧に作られている点。

私は紙質が気に入った。手触りがよいのだ。紙としてのお値段は高いのか安いのかは知らない。

赤い栞紐(スピン)はやや太めでこれも特別感がある。

花ぎれと呼ばれる背表紙の両端に付けられた布がキラキラとしていて良いものが使われている。

スピンや花ぎれの取り付けは、今は自動化が進んでいるらしいが、製造コストアップにつながることには違いない。つまり、裏返せば丹精込めて作られていると言える。


この立派な装丁の本が2,000円(税抜)。出版元の集英社がこの著作を大切に思い大盤振る舞いをしているように、私には見える。


閑話休題、作者の村山由佳の本を読むのは今回が初めて。(えーッと驚かれるかな)


村山ファンに言わせれば「何を今さら」というところだろうが、この作家さんの文章力は相当高い。

読ませるし、表現の引き出しは多いし、密すぎず空きすぎることのない文字量といい感服いたしました。

本作は、その村山由佳が初めて臨んだという評伝もの。出来栄えは大傑作だと私は思う。ここ数年で読んだ本の中で一番よかった。

おそらく村山由佳は主人公である伊藤野枝が大好きになり相当入れ込んで書いたようにうかがえる。そして、伊藤野枝が生きた明治から大正の運動家たちの空気感も愛してしまったのだろう。

伊藤野枝が主人公なのだが、野枝の良人の大杉栄は裏の主人公というべきか、否この夫婦かつ同志の二人が主人公で、疾風怒濤よろしく時代を駆け抜けた。その熱さが行間から浮かびあがっている。

思い起こせば高校時代、日本史の授業で大杉栄の名前を習った。伊藤野枝は聞いたかどうか定かではない。

史実として大杉と伊藤の最期は悲劇なのだが、村山由佳が書くように二人が共に歩むという意味では悲劇ではない。なのでこの本は感傷的になることなく、割に淡々と余韻をもって終わる。

本作は無政府主義者・伊藤野枝を再評価し、その荒ぶる魂を鎮める良書として後世に伝えられるのではないだろうか。
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